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東京家庭裁判所 平成7年(少)3342号 決定

少年 K・S子(昭55.1.20生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  平成7年2月19日午後0時30分ころ、東京都中野区○○×丁目×番×号○○○×××号室A方において、同人他3名所有の現金15万円他8点(預金通帳3通、郵便貯金通帳1通、簡易保険通帳1通、印鑑1本、健康保険証2通)を窃取した

第2  同年6月10日午前0時15分ころ、東京都板橋区○○町××番×号○○○×××号室B方において、同人所有の現金5万5500円位、C所有の現金400円位及びスーツ1着他22点(時価合計8万9400円相当)を窃取した

ものである。

(法令の適用)

非行事実第1 平成7年法律第91号による改正前の刑法235条

非行事実第2 刑法235条

なお、少年については平成7年少第3342号ぐ犯保護事件が係属し、右ぐ犯事由及びぐ犯性は、「少年は、平成7年2月13日少年院を退院したものであるが、保護者の監護に服さず、退院直後から家出を繰り返し、家出中は、ホテル、友人宅等を泊まり歩き、その間訪問盗やテレホンクラブでの売春をしたり、薬物乱用を繰り返しているものであり、このまま放置するとその性格及び環境に照らして、近い将来、窃盗など刑罰法令に触れる行為をするおそれがある。」というものであるが、前記認定非行事実第1、第2の各事実は上記ぐ犯事実から認められるぐ犯性が現実化したものであるから、ぐ犯事実は非行事実第1、第2の事実に吸収され、要保護性に関する事実として考慮すれば足りるものというべきである。

よって、上記ぐ犯事実については非行事実として摘示しない。

(処遇の理由)

少年は、平成6年3月16日、窃盗、ぐ犯保護事件につき、当庁において初等少年院送致となり、平成7年2月13日、少年院を仮退院したものであるが、遊びたい気持ちが強く、仮退院3日後には家出をし、その後も家出を繰り返して、知り合いや友人の家を泊まり歩き、右知り合いや友人の家から現金や洋服などを窃盗したのが本件各非行である。前件の窃盗事件同様、知り合いの家に上がり込んで、家人の隙を盗んでバックなどから現金その他をとるという手口で、手段は巧妙かつ悪質であり、自己の行為についての罪障感も薄く、窃盗行為についてはすでに常習化している。さらに、家出中、シンナーの売人の世話になったり、テレクラを利用して売春紛いのことをしており、非行性は以前にも増して深化している。

少年は、自己イメージが悪く、家族や友人から受容されていないと感じて孤立感を募らせており、家族に依存することを諦めて一人で気儘に行動しようとする傾向が強いうえ、対人面での信頼関係を持つことができないため、本件各非行行為のように、自己の行為が世話になった人を裏切る行為であるとの認識が薄く、共感性に乏しい。

保護環境をみるに、少年は、母親と兄との三人暮らしであるが、母親は、生活に追われ、少年の行動を把握できずにおり、兄は、現在はやや改善されたとはいうものの定職に就かず、そのいらいらを母親や少年にぶつけていたことが窺われ、母親、兄とも少年を監護するまでの余裕はない。

以上の諸事情を総合すると、少年を社会内で処遇することは困難と言わざるを得ず、再び施設に収容し、個別指導を通じて自分の感情を素直に表現すること、周囲と協力してものごとを達成していくことの喜びを経験させ、対人面での信頼関係を形成していくことを学んでいく必要がある。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 齋藤紀子)

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